様々な企業の人権取り組みキックオフの場に同席させていただく機会があるが、他のサステナビリティ・CSRテーマと比べ、参加者の緊張感・使命感を強く感じる。人間の尊厳と事業の間のジレンマに正面から取り組むことになるからであろう。取り組みを進める中で、企業理念や行動規範に立ち戻る機会が多いのも、特徴的である。

最初の一歩は様々だ。例えば下記のようなものが挙げられる。

  • 社内の関連部門にヒアリングし、現状把握をすることから始める
  • 行動規範にグローバルで求められている人権要素を盛り込む
  • 行動規範や方針を改訂する前に、グループとしての人権に対する考え方を示す
  • 具体的なリスクをイメージするために、まずは簡易版リスクマップを作る
  • まずは1拠点を対象にサプライヤー調査を始める
  • 専門家を招へいして人権をテーマにしたダイアログや社内講演会を開催する
  • 人権をテーマとしたeラーニング教育をグローバルに展開する

何から始めるにしても共通するのは、人権デュー・ディリジェンスを意識した形で取り組みが進められている点である。その点は国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が発表される前とは議論のスタートが大きく異なっている。企業の人権への取り組み姿勢は、日本でもここ数年で確実に変わったと感じている。

企業の背後には、グローバル市民としての「説明責任」を求める声が迫っている。組織的に人権への対応ができている/進めていることを説明しなくてはならない。昨今では長期視点での機関投資家を中心に、ESG投資の動きも活発になってきている。こうした文脈からも、人権リスクへの対応は、企業の大きな生命線の一つとなっており、多くの企業が、サステナビリティ・CSR担当者の呼びかけを起点に、組織的な動きを進めようとしている。

人権への取り組みは、他サステナビリティ・CSRテーマ、そして様々な部署に関係するため、横断的な視点、連携が求められる。何ごともサステナビリティ・CSR部門だけでは完結しないため、機動性を確保しつつ、他部署のキーパーソンを押さえた形で初動チームを整えることが重要となる。

大切なのは前向きなコンセンサス

様々な企業の、こうしたキーパーソン同士の初対話に同席して感じるのは、抱える人権リスク、既存取り組みレベルは違っても、「できていない部分がある(かもしれない)」という前提を前向きに共有できているか否かで、対話のスタートが大きく異なるということである。リスクを押し付け合ったり、顕在化するまで認めなかったり、グレー部分に触れなかったりするのではなく、リスクの存在と既存対応内容に関し、まずはわかる範囲で主要メンバー間のコンセンサスを持つことで道が開けてくる。駆け引きなしが重要なのである。そういう意味では、人権取り組みの初動時点で重要なのは、「リスクにどれだけ対応できているか」よりも「リスクをどれだけ前向きに議論する姿勢に持っていけるか」にあるといってもよいかもしれない。

グローバルで社会的に難しいジレンマをはらむ人権テーマに関し、一企業が即座に課題解決を約束することは難しい。一方で、解決に向けた前向きな議論/協働への積極関与は、企業として有効なアプローチの1つであるという。リスクに関する透明性向上は戦略的に行う必要はあるが、「前向きな姿勢で、リスクとその対応の方向性を共有する」ことが重要になる。


イースクエアでは、上記のような人権リスクへの対応を支援しています。 詳細は、以下のページをご参照ください。

サステナビリティ経営―人権デュー・ディリジェンス導入