UNIDO(国連工業開発機関)は、1966年に設立された国連の専門機関で、工業開発を通じた経済成長や持続可能な発展を支援する役割を担っています。本部はオーストリアのウィーンにあり、途上国や新興国における産業の発展を促進するために技術支援や政策助言を提供しています。また、環境保護やクリーン技術の普及、貧困削減などの国際的な課題にも取り組んでおり、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指しています。

先日の記事ではUNIDO本部の調達案件への応募方法について解説しましたが、今回はいまUNIDO本部から公募されているウクライナのグリーン産業復興プロジェクトをご紹介します(202477日現在)。

このスキームの正式名称は、Green industrial recovery project for Ukraine through technology transfer from the co-creation of new businesses, with Japan's private industriesとなっており、日本語に訳すると「日本の民間企業との新事業共創による技術移転を通じたウクライナのグリーン産業復興プロジェクト」となります。 

2024年528日、読売新聞に「ウクライナ支援、「日本と共同事業」条件に...農業・脱炭素化など7分野で最大15億円補助」という記事が記載されましたが、ウクライナの産業復興に参画する日本企業とウクライナ企業の共同事業に資金支援をするのが今回のプロジェクトです。

プロジェクトの背景

2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻は、同国の産業と経済に甚大な影響を与え、持続可能な産業開発を妨げています。産業復興と経済回復のためには、付加価値を高め、雇用機会を増やすことが必要であり、EU加盟を目指すウクライナ経済は、環境面でのベストプラクティスや競争力向上に注力する必要があります。UNIDOは、2024-2028年を対象とするグリーン産業復興プログラムを開始し、包括的な産業診断調査に基づき、ウクライナの持続可能な産業開発を促進するための戦略的方向性を示しました。破壊された産業やインフラを元通りにするのではなく、より環境負荷が低く、生産と製品が環境にやさしく、エネルギー効率と資源効率に優れ、循環型経済に移行していくことを目指しています。

このプロジェクトは、ウクライナと日本の民間セクター間の技術移転、能力開発、ビジネス共創を通じて、ウクライナの産業復興とイノベーション・エコシステム構築を支援することを目的としています。

 なお、20233月岸田文雄首相はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談を行いました。その際に日本・ウクライナ両政府から出された声明の一部がこちらです。

「日本はウクライナの戦後復興へのコミットメントを再確認した。両首脳は、復旧・復興プロセスにおいて民間部門が重要な役割を果たすべきであるとの見解を共有した」

今回募集されているグリーン産業復興プロジェクトはこの声明を具体化したものと言えるでしょう。

グリーン産業復興プロジェクトの予算規模

グリーン産業復興プロジェクトの予算総額は約260億円で、日本の2023年度補正予算に計上されています。日本政府はUNIDOに資金を拠出し、UNIDOが複数年にわたって予算を執行します。

 対象分野

ウクライナのポテンシャルと日本の技術的比較優位に基づいて以下の7つが提案可能な分野として指定されています。

(1) アグリビジネス、食品バリューチェーン、水インフラ

(2) バイオマスや未利用一次産品からの製造、循環型経済の強化

(3) デジタルトランスフォーメーション、ICTの積極的活用、データ分析、人工知能

(4) 持続可能なエネルギーシステム、省エネルギー、産業の脱炭素化、エネルギーインフラの管理、気候変動リスクの緩和と適応

(5) グリーン水素/アンモニア

(6) 中小企業の生産性向上と先進ロジスティクス

(7) 福祉機器、遠隔医療、医療サービス

プロジェクトの受益者

今回のプロジェクトの主な受益者は、ウクライナの様々な産業分野の起業家、企業、専門家、技術専門家、熟練労働者です。ウクライナのこれらの事業体は、最終的には、UNIDOの財政的・技術的支援を受けて、日本の技術保有企業によって提供される技術移転や能力開発活動、日本の民間企業との新事業の共同創出から恩恵を受けることが期待されています。

プロジェクトの実施体制

今回のプログラムには日本政府が資金を拠出していることもあり、提案することができるのは日本企業のみとなっています。また、ウクライナのパートナー(企業など)との共同実施が必須条件になっており、日本・ウクライナ以外の第3国のパートナーと組むことも可能です。

プロジェクトの実施体制.jpg

図:プロジェクトの実施体制
出典:UNIDO

なお、ウクライナで事業を行っている日本企業はそれほど多くないため、ウクライナにはパートナーがいないというケースも想定されます。その場合、ウクライナ側のパートナーが応募時点でいなくても、応募書類にウクライナのパートナーの期待される役割と責任が明確に定義されていれば応募は可能になっています。応募後にウクライナの経済省がウクライナ側のパートナーをマッチングします。

 プロジェクトの対象地域

ロシアによるウクライナ侵攻は未だ続いており、軍人だけではなく、民間人の死傷者もしばしば出ている状況です。そのため、プロジェクトを実施できる対象地域は下記の地図上で赤の四角で囲ってあるOblast(州)に限定されています。これらの州には案件実施をサポートするUNIDORegional Development Coordinators(地域開発コーディネーター)が配置されます。

プロジェクトの対象地域.jpg

プロジェクトの対象地域
出典:UNIDO

プロジェクトのステージとタイムライン

今回募集されているのは、下図のPhase1のフィージビリティ・スタディ(F/S)ステージです。F/Sの結果、UNIDOの審査によって優良だと認められた案件はPhase2のパイロットステージ(~20283月)に進むことができます。Phase3は事業をスケールアップさせるためのフォローアップ、Phase4は政策勧告ですので、主に企業に関係があるのはPhase1Phase2となるでしょう。

プロジェクトのフェーズ.jpg

プロジェクトのフェーズ
出典:UNIDO

 補助金額

グリーン産業復興プロジェクトの補助金額はステージごと、企業区分(中小企業か大企業か)に設定されています。さらに中小企業でもウクライナ向けにデザインされた革新的な技術を持つか否かで補助率が異なります。革新的か否かは新規性(novelty)、優越性(superiority)、独自性(originality)に基づいてUNIDOが判断するとしています。

ステージごとの補助金額補助率.jpg

1USD=155円換算
出典:UNIDOの資料を基にイースクエアが日本語訳

補助対象経費

本プロジェクトの補助対象経費はTORに明記されていませんが、応募書式には下記の費目が記載されています。

人件費
設備費
旅費
輸送費
土地借料
外注費

 また、総額の10%以下であればモニタリング・報告費用を含む間接費(overhead costs)が認められることがTORに明記されています。

 応募条件

応募者は下表にある10の条件を満たしている必要があります。

条件.jpg

出典:UNIDO資料を基にイースクエアが日本語訳

 

提案書の評価基準と配点

提案書は技術評価(technical evaluation)と財務評価(financial evaluation)の両面から評価されます。評価項目の詳細については、仕様書(TOR)に記載がありますので、ご興味のある方はご参照ください。

 

技術評価基準

評価項目.png

出典:UNIDO資料を基にイースクエアが日本語訳

続いて、財務基準はこちらです。

財務評価項目

財務評価項目.png

出典:UNIDO資料を基にイースクエアが日本語訳

なお、財務評価に関連して、以下のルールには留意が必要です。

 

・モニタリングおよび報告費用を含む間接経費は補助金に計上できるが、申請額の10%を超えてはならない

・遡及的な資金提供は行わないこと(すなわち、補助金契約を締結する前に、既に開始または締結された活動を補助金で賄ってはならない)

・活動の二重資金供与を行わないこと。二重資金供与とは、他の資金源から既に資金が提供されている活動に対して補助金が支払われることをいう。特に、助成金を借入金の返済に充ててはならない。

 補助金の支払いタイミング

補助金の支払いは下記の3つのタイミングで行われます。それぞれの支払いの割合は案件開始時にUNIDOとの交渉で決定されます。

 

  1. インセプションレポート(補助金契約締結後、原則1ヶ月以内)
  2. 進捗レポート(補助金契約締結後、6ヶ月以内)
  3. 完了レポート(補助金契約終了日から30日以内)

 提案書の順位づけの方法

技術的にも事業的にも許容できるとなされた提案書は、技術スコア(80%)と財務スコア (20%)の比重に基づき、以下の計算式で総合得点を算出して順位づけします。

(総合得点)=(技術得点×80%)+(財務得点×20

採択予定件数

フェーズ1F/S)の採択件数は40万ドル×35件を予定しています。フェーズ2(パイロット)については公表されていません。

応募スケジュール

以下のスケジュールを予定しています。

2024年65日:第1バッチ公示(Call for Proposals
2024年75日:第1回応募締め切り
2024年8月初旬:第2回応募締め切り
2024年9月初旬:第3回締め切り
2024年9月~10月:契約交渉
2024年10月~:プロジェクト開始/2バッチ公示(Call for Proposals

まとめ

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、こういったスキームを新設するまでには色々なハードルがあったことと思います。事業地域はロシアによる脅威が比較的小さいウクライナ西部に限られていますが、安全対策などには十分に留意が必要でしょう。

 一方、ウクライナの戦争により、ウクライナの農業大国としての存在感、IT産業の発展、レジリエンスの強さなども知られるようになりました。ウクライナの経済復興と日本・ウクライナ企業の事業発展を同時に目指す本スキームは、ウクライナ、日本の双方にとって非常に価値のあるものになる可能性があります。

 大多数の日本企業がウクライナにおける事業経験がない現状を勘案し、ウクライナ側にパートナーがいなくても応募可能になっていますので、ウクライナにおいて自社の強みが発揮できる分野があれば、挑戦してみてはいかがでしょうか。今回の記事では、UNIDOの仕様書やプレゼンテーション資料などから特に重要な項目をピックアップして紹介しましたが、実際に応募される際にはUNIDOの調達ポータルにログインし、元資料一式をご確認ください。UNIDOの調達システムの使い方についてはこちらの記事もご参照ください。なお、本プロジェクトではコンサルタントの傭上も認められています。イースクエアがコンサルタントとして参画することも可能ですので、お気軽にお声掛けください。

 イースクエアでは、アジアやアフリカ等の途上国・新興国での多数のプロジェクト経験に加え、様々な民間企業でのビジネス経験を有するコンサルタントのノウハウや現地ネットワークをフル活用し、お客様のニーズに合わせて、オーダーメイドで海外ビジネス展開をご支援しています。UNIDOを含む国内外の公的機関への案件応募もご支援可能です。ご興味がある方はお気軽に以下よりお問い合わせください。

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