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日本は地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発する国であり、これまでに阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)や西日本豪雨(2018年)といった甚大な被害を経験してきました。これらの災害を通じて培われたノウハウや知見、技術を活かし、日本は防災対策を進化させ続けています。

アジア・太平洋地域における日本の防災協力は、こうした経験を基に地域の安全性と安定性を支える重要な取り組みとなっています。日本は、防災技術や被災対応の知見を共有し、インフラ整備、防災関連製品の輸出、防災教育、国際機関との連携を通じて、地域社会の防災力強化に貢献しています。

さらに、この協力により日本企業にとっても新たなビジネス機会が広がり、国際的なプレゼンスの強化にもつながっています。以下、日本が行っている主な防災協力の活動について紹介します。

 

1.技術協力とキャパシティ・ビルディング

日本の防災協力における技術協力とキャパシティ・ビルディング(能力開発)は、特に災害リスクの高いアジア太平洋地域において重要な役割を果たしています。以下に、JICA(国際協力機構)を通じた日本の具体的な取り組みについて詳しく説明します。

 

JICAの技術協力とプロジェクト

JICAは、防災分野での技術協力を通じて、災害リスクの軽減や災害対応能力の向上を目的としたプロジェクトを各国で実施しています。この協力は、地震や津波、洪水、台風など、地域の特性に合わせた技術支援や防災計画の策定を含みます。

 

具体例:

  • インドネシアでの支援:2004年のスマトラ沖地震と津波の後、日本はインドネシア政府と協力し、津波早期警報システムを構築しました。また、JICAは「災害リスク軽減・防災のための都市整備」などのプロジェクトを通じて、インドネシアの都市での地震リスク評価や、災害に強い都市インフラの設計に貢献しています。
  • フィリピンでの支援:JICAはフィリピンでも防災協力を行っており、首都マニラでの洪水対策プロジェクトや、火山や台風のリスクに対処するための早期警報システムの改善に取り組んでいます。

 

②リスク評価技術の提供

災害リスク評価技術は、災害に強いインフラを整備するために重要な要素です。JICAは、日本国内で蓄積された地震や津波の予測技術、リスク分析手法を他国に提供し、その国の地理的特徴や過去の災害データに基づいてリスクを評価する技術を共有しています。

 

具体的な支援内容:

  • 地震のリスク評価:JICAは、地震の多発する国々で耐震設計基準の策定や、公共施設や住宅の耐震補強プログラムを実施しています。また、地震被害を最小限に抑えるための建物の構造設計や都市計画に関する技術的なアドバイスも行っています。
  • 津波に対するリスク評価:日本の津波予測技術を基に、沿岸地域での津波被害を予測するためのモデルの導入や、津波避難経路の整備を支援しています。

 

③災害に強いインフラの整備

日本は地震や台風などに対する災害に強いインフラ整備の経験を豊富に持っています。この経験を活かして、JICAはアジア太平洋地域の国々で、災害に耐えうるインフラの設計・建設を支援しています。具体的には、道路、橋梁、ダムなどの耐震補強や、洪水対策のための排水システムの改善などが挙げられます。

 

具体的なプロジェクト:

  • ベトナムでの洪水対策:ベトナムでは、河川の氾濫や都市部の浸水リスクが高いため、JICAは洪水対策インフラの整備を支援しています。例えば、ハノイ市での地下排水トンネルの建設や、河川の堤防強化プロジェクトを通じて洪水リスクを低減させる取り組みを行っています。

 

④専門家の派遣と現地の能力開発

災害リスク管理における現地の人材育成も、日本の防災協力の重要な要素です。JICAは災害リスク管理に関する専門家を各国に派遣し、現地政府や防災機関と連携してキャパシティ・ビルディングを行っています。

 

取り組みの内容:

  • 研修プログラム:日本国内での研修プログラムも積極的に提供されています。アジア太平洋地域からの防災関係者を日本に招き、地震や津波に対する先進的な対策を学ぶ研修を行っています。これにより、各国の担当者が帰国後、自国の防災対策に応用できる知識やスキルを習得します。
  • 専門家派遣:JICAは防災分野で経験豊富な専門家を派遣し、現地での災害リスク評価、対策立案、訓練実施を支援します。例えば、ネパールでの地震防災プロジェクトでは、日本の専門家が現地で防災計画の策定を支援し、地元の防災リーダーを育成しています。

 

⑤災害対応訓練とシミュレーション

災害発生時の対応能力を高めるため、日本はシミュレーション技術を利用した災害対応訓練を支援しています。これには、地震や津波、洪水が発生した際に迅速かつ効果的に対応するためのシナリオ訓練や、各国の防災当局との協力体制の強化が含まれます。

 

参考情報:

JICAグローバル・アジェンダ、防災・復興を通じた災害リスク削減、https://www.jica.go.jp/activities/issues/disaster/index.html

 

2.災害リスク軽減のための国際的な枠組みへの貢献

日本が主導的役割を果たした「仙台防災枠組み(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030)」は、災害リスク軽減(Disaster Risk Reduction: DRR)を目的とした国際的な行動指針であり、地球規模での災害リスク管理において重要な役割を果たしています。仙台防災枠組みは、2015年に日本の仙台市で開催された第3回国連防災世界会議において採択されました。この枠組みの詳細な内容と、日本の貢献について以下で説明します。

 

①仙台防災枠組みの概要

仙台防災枠組みは、2015年から2030年までの15年間を対象とした災害リスク軽減のための国際的な枠組みで、従来の「兵庫行動枠組み(Hyogo Framework for Action 2005-2015)」の後継となるものです。この枠組みは、自然災害だけでなく、技術的な災害や人為的な災害も含むあらゆる災害リスクの軽減に焦点を当てています。主な目標は、生命、生活、インフラ、環境に対する災害リスクを減少させ、災害発生後の損失を最小限に抑えることです。

 

仙台防災枠組みの4つの優先行動:

  • リスク理解の向上:災害リスクの正確な把握と、そのリスクに基づく政策・対策の立案。
  • リスクガバナンスの強化:災害リスクを減少させるための政策や計画を効果的に実施できるよう、あらゆるレベルでの協力体制を整備すること。
  • レジリエンスの強化:インフラやコミュニティを災害に強くするための措置、災害後の迅速な復旧・復興を可能にする準備体制の構築。
  • 効果的な復興:災害後の復興を単なる元の状態への回復に留めず、より良い復興(Build Back Better)の実現を目指す。

 

②日本の主導的役割

日本は、世界で最も災害の影響を受けやすい国の一つであり、その経験と知識を活かして仙台防災枠組みの策定に大きく貢献しました。日本は災害からの復興プロセスで得た教訓や、災害リスク管理における先進的な技術・制度を共有し、この枠組みの議論をリードしました。

具体的には、東日本大震災(2011年)の教訓をもとに、災害からの「より良い復興(Build Back Better)」の概念が枠組みの中核に据えられました。この概念は、単なる災害後の復旧ではなく、災害前よりもレジリエントな(強靭な)社会を構築することを目指しており、日本の震災後の復興の実例がその基盤となっています。

 

③アジア太平洋地域での協力

仙台防災枠組みに基づいた防災協力は、アジア太平洋地域で特に活発に進められています。この地域は、地震、津波、台風、洪水など多様な災害リスクを抱えており、日本は以下のような形で協力を進めています。

 

主な活動:

  • 地域会議やワークショップの開催:日本はアジア太平洋地域の各国と協力し、防災に関するワークショップや会議を開催しています。これらの会議では、仙台防災枠組みの実施状況を共有し、各国の防災計画の策定やリスク管理能力の向上を図っています。ASEAN防災ワークショップや、太平洋諸島防災会議などで、日本は防災戦略や先進的な技術を共有し、災害リスク管理の向上を支援しています。
  • 技術的・資金的支援:日本は、災害リスクの高い国々に対して、仙台防災枠組みに基づく防災技術の提供や、インフラ整備のための資金援助を行っています。これには、津波や地震、洪水に対する早期警報システムの導入や、災害に強い都市計画の支援が含まれます。インドネシアの津波早期警報システムや、フィリピンでの災害リスク削減プロジェクトがその例です。

 

④日本の貢献と取り組みの具体例

日本は、仙台防災枠組みを地域で実施するために、以下の具体的な貢献をしています。

 

防災計画策定支援

  • 各国が自国の防災計画を策定する際に、仙台防災枠組みに基づいたガイドラインや技術的支援を提供しています。これにより、地域ごとの災害リスクを踏まえた包括的な防災政策の策定が進められています。

防災教育と啓発活動

  • JICAやアジア防災センター(ADRC)を通じて、日本は防災教育や訓練プログラムを提供しています。これにより、アジア太平洋地域の防災リーダーやコミュニティが災害に対する知識や対応力を向上させることができます。

国際連携強化

  • 日本は、ASEANや太平洋諸国、南アジア諸国と協力し、災害リスク管理に関する国際的な連携を強化しています。また、国連国際防災戦略事務局(UNDRR)とも密接に連携し、仙台防災枠組みの普及と実施を進めています。

 

⑤課題と今後の展望

仙台防災枠組みの実施には、各国の政治的意志や資金的制約、地域ごとの異なるリスクへの対応など、多くの課題があります。しかし、日本はこれらの課題を解決するため、引き続き技術協力やキャパシティ・ビルディングを推進し、災害リスク軽減に貢献していくことが求められています。

また、気候変動の影響で災害リスクが増加している現在、仙台防災枠組みの目標を達成するためには、より多くの国際協力や地域レベルでの連携が重要です。

 

主な参考情報:

仙台防災枠組み2015-2030https://sendai-resilience.jp/media/pdf/sfdrr_2.pdf

 

3.緊急援助と災害対応

日本の「緊急援助と災害対応」体制は、世界中で発生する災害に対して迅速かつ効果的に対応するために高度に整備されています。日本は、国内外の自然災害や人為的災害に対して、国際緊急援助隊を含むさまざまな手段で支援を提供し、その経験と技術を他国にも活用しています。以下に、日本の緊急援助と災害対応に関する詳しい説明をします。

 

①国際緊急援助隊(JDR: Japan Disaster Relief Team

日本の「国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team, JDR)」は、自然災害や人為的な大規模災害が発生した際に、海外に迅速に派遣されるチームです。この援助隊は、被災国の要請に基づいて派遣され、救助、医療、技術支援、物資供給などの緊急支援を行います。

 

国際緊急援助隊の主な活動:

  • 救助チーム:災害直後に派遣されるチームで、瓦礫の下から被災者の救出や、必要な救助活動を行います。特に地震などで倒壊した建物の中での救助活動に精通しています。
  • 医療チーム:医師や看護師、薬剤師などで構成される医療チームが、被災地で医療支援を提供します。負傷者の治療だけでなく、感染症の拡大を防ぐための衛生指導も行います。
  • 技術支援チーム:被災後の復興に向けた技術的な支援を提供します。たとえば、インフラの復旧や水供給システムの修復、災害リスク評価などの技術的な支援が含まれます。
  • 物資支援チーム:食料や水、医療物資、衣類などの緊急物資を提供するために派遣されます。物流や供給チェーンの管理も含め、被災地での支援を円滑に進める役割を担います。

 

派遣プロセス:

  • 被災国政府からの要請を受け、外務省がJDR派遣の準備を開始します。JICA(国際協力機構)が事務局としてコーディネートを行い、各省庁や関連機関と連携して隊員を派遣します。
  • 日本は、地震、台風、洪水などさまざまな災害に対して専門性の高いチームを派遣することが可能です。

 

②近年の緊急援助活動の例

日本の国際緊急援助隊は、近年でも多くの国際災害に対して迅速に対応しています。以下はその具体例です。

 

2020年のベイルート爆発事故

  • 20208月にレバノンの首都ベイルートで大規模な爆発事故が発生し、多くの死傷者と広範囲の被害が出ました。この災害に対して、日本はすぐに国際緊急援助隊を派遣し、被災地での医療支援を行いました。さらに、必要な医療物資や緊急物資も提供しました。
  • 医療チームは、現地の医療機関と連携し、治療を必要とする負傷者への医療サービスの提供や、爆発の影響による医療施設の再建支援も行いました。

2021年のミャンマーのサイクロン災害

  • 20215月、ミャンマーでは強力なサイクロンが発生し、洪水や強風による大規模な被害が生じました。日本はこの災害に対しても国際緊急援助隊を派遣し、被災者に対する支援活動を行いました。具体的には、医療支援や仮設住宅の提供、インフラ復旧に向けた技術的支援が行われました。

 

③緊急援助チームの連携体制

日本の国際緊急援助隊は、災害発生時に迅速に動けるよう、国内外で強固な連携体制を整えています。被災国政府や国際機関(国連や赤十字など)との調整を速やかに行い、最適な形で支援を提供します。

 

主な連携先:

  • 国連機関:国連人道問題調整事務所(OCHA)などの国際機関と連携し、支援活動をコーディネート。被災地でのニーズに応じた対応を行います。
  • NGOや他国の援助隊:現地の非政府組織(NGO)や、他国から派遣された援助隊とも協力し、効率的な災害対応を進めます。被災国との密接な協力のもと、救援物資の分配や医療支援などを調整します。

 

④災害対応のための事前準備と訓練

迅速な災害対応を実現するため、日本の国際緊急援助隊は定期的に訓練を実施し、即応体制を強化しています。これには、国内外でのシミュレーション訓練や、他国との合同訓練が含まれます。

 

主な訓練:

  • シミュレーション訓練:地震や洪水、津波といったさまざまな災害シナリオに基づく訓練が行われ、迅速かつ効果的な災害対応が可能となるよう準備が整えられています。
  • 合同訓練:他国や国際機関との合同訓練を通じて、実際の災害発生時におけるスムーズな連携と効果的な対応を実現するための準備が進められています。

 

⑤国内外の人道的災害支援

日本は、国際緊急援助隊を通じた災害支援活動だけでなく、国内でも災害支援活動を行っています。国内の災害発生時には、自衛隊や警察、消防などが迅速に動員され、救援活動が行われます。また、災害発生時に必要な医療物資や緊急物資の備蓄も国内で充実しています。

 

国内外での協力:

  • 国内の災害対応能力を高めるための訓練や技術的支援は、海外でも共有されており、アジア太平洋地域を中心に多くの国々と防災技術やノウハウを交換しています。

 

主な参考情報:

JICA国際緊急援助、https://www.jica.go.jp/activities/schemes/jdr/index.html

 

4.地域機関との連携

日本は、アジア太平洋地域における災害対応と防災協力において、地域機関との連携を強化するための重要な役割を担っています。特に、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)やアジア防災センター(ADRC)といった地域機関との協力を通じて、防災における調整や技術支援、教育・情報共有を推進しています。以下、それぞれの機関との連携について詳しく説明します。

 

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)との連携

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国における災害対応と防災活動を調整するために設立された機関です。このセンターは、災害発生時にASEAN諸国間の連携を強化し、迅速かつ効果的な人道支援を提供するための調整を行います。

 

AHAセンターの主な役割:

  • 災害が発生した際、ASEAN諸国間での調整役を担い、物資の供給や支援の迅速な展開を図る。
  • 災害リスク軽減のための戦略を策定し、ASEAN加盟国が共通の枠組みで防災対策を進めるための指針を提供する。
  • 災害発生時の情報共有を促進し、リアルタイムでの被害状況や支援ニーズを把握する。

 

日本の支援内容:

日本は、AHAセンターに対して資金援助や技術的サポートを提供し、その能力強化に貢献しています。

 

  • 資金援助:日本政府は、AHAセンターの災害対応能力を向上させるための資金提供を行っています。これにより、AHAセンターがより迅速で効果的な支援活動を実施できるよう、機材やシステムの導入が進められています。
  • 技術的支援:日本は、防災分野での高度な技術やノウハウを共有し、AHAセンターの職員に対してトレーニングや研修プログラムを提供しています。これには、災害リスク評価、早期警報システムの導入、防災計画の策定などが含まれます。例えば、日本は東日本大震災やその他の大規模災害の経験を活かし、ASEAN諸国が同様の災害に対してより良い対応ができるよう、災害後の復興プロセスや緊急対応に関する知識を共有しています。
  • 備蓄物資の提供:日本はAHAセンターの備蓄倉庫を通じて、緊急時に使用される物資(食料、水、医療品、仮設住宅など)の供給を支援しています。これにより、災害発生時に迅速に必要な支援物資が被災国に届けられる体制が整っています。

 

具体的な協力事例:

  • 2018年のインドネシア・スラウェシ地震と津波:AHAセンターは、インドネシアのパル市で発生した地震と津波に対して迅速に対応し、ASEAN諸国と協力して物資供給や救助活動を調整しました。この際、日本はAHAセンターを通じて技術的・物資的支援を行いました。

 

②アジア防災センター(ADRC)との連携

アジア防災センター(ADRC: Asian Disaster Reduction Center)は、1998年に日本の神戸市に設立された国際機関で、アジア太平洋地域の災害リスク軽減に取り組んでいます。このセンターは、災害に関する情報共有や防災教育、災害対策に関する研究を進める機関として、地域全体の防災能力向上に寄与しています。

 

ADRCの主な役割:

  • アジア太平洋地域における災害リスク軽減と災害対応のための情報を収集・分析し、各国に提供する。
  • 各国の防災リーダーや専門家に対して、研修やワークショップを通じて防災に関する技術と知識を普及する。
  • 国際的な防災ネットワークを構築し、災害対応における各国の協力を促進する。

 

日本の支援内容:

日本は、ADRCの設立以来、強力な支援を行っており、技術的支援や防災教育の普及において重要な役割を果たしています。

 

  • 防災情報の共有:日本は、ADRCを通じて災害リスク軽減に関する最新の技術や情報をアジア太平洋地域の国々と共有しています。これには、日本の気象庁や防災科学技術研究所(NIED)と連携した災害予測やリスク評価の技術が含まれます。例えば、地震や津波の早期警報システムに関する情報を各国に提供し、被害を最小限に抑えるための技術的なアドバイスを行っています。
  • 防災教育と人材育成:ADRCは、防災分野の専門家を育成するために、日本国内外で研修プログラムやワークショップを開催しています。これにより、アジア太平洋地域の防災リーダーが自国での防災対策に役立つ知識やスキルを習得できるよう支援しています。例として、日本はアジア各国の防災担当者を対象に、神戸市での震災復興の経験を基にした研修プログラムを提供し、地震や津波に対する効果的な対策を共有しています。
  • 国際防災会議の開催:ADRCは、国際的な防災会議を定期的に開催し、アジア太平洋地域の災害リスク軽減に関する最新の知見や技術を共有しています。これにより、地域内での防災協力が強化され、各国の災害対応能力が向上します。

 

具体的な協力事例:

  • アジア防災会議:ADRCは、毎年「アジア防災会議」を開催し、各国の防災リーダーや専門家が集まり、災害リスク軽減に向けた協力体制の強化を図っています。日本はこの会議で、国内の防災技術や災害対応の知識を共有し、地域全体の防災能力向上に貢献しています。

 

③地域機関との協力の意義

日本がAHAセンターやADRCと協力することは、アジア太平洋地域における防災能力の強化にとって非常に重要です。日本は、災害対応の経験や技術を地域全体に共有し、共通の災害リスクに対して一体となって対策を講じることで、被害を最小限に抑えることを目指しています。これにより、地域内での防災協力が深化し、各国が災害に対するレジリエンスを高めるための土台が築かれています。

 

主な参考情報:

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)、https://ahacentre.org/

アジア防災センター(ADRC)、https://www.adrc.asia/top_j.php

 

5.先進的な防災技術とノウハウの共有

日本は、災害リスクが高い国として、多くの自然災害に対する先進的な防災技術やノウハウを蓄積しており、それらを他国と共有することで、国際的な防災協力に積極的に貢献しています。日本が提供する技術やシステムは、地震、津波、台風などの自然災害に対する早期警報や予測システム、また災害後の復旧・復興を迅速に進めるための技術を含んでいます。以下、これらの先進的な防災技術やノウハウの共有に関する具体的な取り組みを説明します。

 

①地震予測技術と早期警報システム

日本は、世界でも最も地震の多い国の一つであり、地震に対する防災技術が非常に高度に発展しています。この経験と技術は、他国の地震災害リスク軽減に大きく貢献しています。

 

日本の技術の特徴:

  • 緊急地震速報システム(Earthquake Early Warning, EEW:日本の気象庁が開発した緊急地震速報システムは、地震の発生を瞬時に検知し、震源から離れた地域に対して、揺れが到達する前に警報を出す仕組みです。これにより、国民が地震に備えるための数秒から数十秒の猶予が得られます。この技術は、アジア太平洋地域の他国にも提供されており、たとえば台湾やメキシコなどで日本の技術を基にした地震速報システムが導入されています。
  • 地震動予測マップ:日本は、過去の地震データを分析し、今後起こりうる地震の震度や揺れの強さを予測する「地震動予測マップ」を作成しています。この技術は、都市計画や防災インフラの設計に活用されており、災害に強い建物や道路の整備に役立っています。他国への技術移転も進められており、特に地震多発国での防災計画に活用されています。

 

国際協力の事例:

  • ネパールでの支援:2015年に発生したネパール大地震では、日本は技術支援を提供し、地震リスク評価のための技術や都市部の耐震基準の強化に貢献しました。

 

②津波早期警報システム

津波は日本が直面する主要な自然災害の一つであり、津波に対する早期警報技術は非常に進んでいます。日本は、インド洋津波(2004年)の後、アジア太平洋地域に津波早期警報システムの導入を支援してきました。

 

日本の技術の特徴:

  • 津波早期警報システム:日本の気象庁と防災科学技術研究所(NIED)は、地震発生直後に津波の可能性を迅速に評価し、警報を出すシステムを運用しています。これにより、津波が到達する前に沿岸地域に警報を発し、避難行動を促すことができます。このシステムは、インドネシアやフィリピンなど津波リスクが高い国々に技術移転され、現地での津波リスク軽減に寄与しています。

 

国際協力の事例:

  • インドネシアでの津波早期警報システムの導入:2004年のスマトラ沖地震と津波の後、日本はインドネシア政府と協力して、津波早期警報システムの整備を支援しました。日本の技術支援により、地震発生後にリアルタイムで津波警報が発令されるシステムが構築され、住民が迅速に避難できる体制が整いました。
  • フィリピンでの技術支援: 日本はフィリピンにも津波警報システムを導入し、フィリピン沿岸部のコミュニティに対する津波リスク軽減を図っています。

 

③台風と洪水に対する予測技術

台風や洪水は、日本だけでなくアジア太平洋地域の広範な地域で大きな災害を引き起こします。日本の気象庁や水文研究機関が開発した台風と洪水の予測技術は、他国の防災計画にも役立っています。

 

日本の技術の特徴:

  • 気象予測技術:日本の気象庁は、高度な気象予測モデルを用いて、台風の進路予測や降水量予測を行っています。これにより、台風の上陸前に詳細な予測が可能となり、被災地での事前準備が進められます。
  • 日本の予測技術は、フィリピンやベトナムなど、台風リスクが高い国々で採用され、災害発生時の事前対策に役立っています。
  • 洪水予測技術:日本の防災研究機関では、河川の水位や降水量をリアルタイムで監視し、洪水リスクを早期に察知する技術が発展しています。これらの技術は、特に都市部や農村部での洪水対策に効果を発揮し、他国でも応用されています。

 

国際協力の事例:

  • ベトナムでの洪水予測システム:日本はベトナムで洪水予測技術を提供し、メコン川流域での洪水リスク軽減に貢献しています。この技術により、洪水が発生する前に住民が避難するための警報が発せられ、被害を最小限に抑えることが可能となっています。

 

主な参考情報:

防災科学技術研究所(NIED)、https://www.bosai.go.jp/index.html

気象庁、気象業務はいま、気象庁の国際協力と世界への貢献、https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/index.html

  

6.気候変動への対応

日本は、気候変動が引き起こす災害リスクの増加に対応するため、アジア太平洋地域の国々と連携し、気候変動適応策を強化しています。気候変動による自然災害の増加やその影響に備えるため、日本は高度な防災技術やノウハウを共有し、地域全体でのレジリエンス(災害に強い社会の構築)向上を目指しています。以下に、日本の気候変動に対する具体的な取り組みを詳しく説明します。

 

①海面上昇に対する沿岸地域の防災対策

気候変動による海面上昇は、特に島嶼国や沿岸地域に大きな脅威をもたらしています。アジア太平洋地域の多くの国々は、海面上昇による洪水や浸水のリスクに直面しており、日本はこれに対する防災対策を支援しています。

 

日本の取り組み:

  • 堤防や護岸施設の建設支援:日本は、沿岸地域での洪水リスクを軽減するために、堤防や護岸の強化を支援しています。これにより、高潮や海面上昇による浸水被害を防ぐことができます。たとえば、フィリピンやベトナムなどの沿岸地域では、日本の支援を受けて防潮堤や排水システムが整備されています。
  • 海岸侵食対策:海面上昇や異常気象に伴う海岸侵食も深刻な問題です。日本は、砂浜の回復や海岸侵食防止のための植生工事など、持続可能な海岸保全技術を導入し、他国に技術支援を提供しています。
  • 自然を利用した防災対策(Eco-DRR:日本は、自然を利用した災害リスク軽減(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction, Eco-DRR)の考え方を普及させています。マングローブの植樹やサンゴ礁の保護など、自然の力を利用して沿岸地域を守る取り組みが進められており、これらは特に気候変動の影響を受けやすい小島嶼国で効果的です。

 

国際協力の事例:

  • フィリピンの沿岸保護プロジェクト:日本はフィリピンで、海面上昇に伴う高潮や洪水リスクを軽減するための堤防建設や自然再生プロジェクトを支援しています。これにより、沿岸部に住むコミュニティが気候変動による被害を最小限に抑えることが可能になっています。

 

②気候変動に強い農業技術の導入

気候変動は農業にも深刻な影響を与え、干ばつや異常気象により農作物の生産性が低下するリスクが高まっています。これに対応するため、日本は気候変動に強い農業技術の導入を支援し、持続可能な農業の実現に向けた取り組みを進めています。

 

日本の取り組み:

  • 干ばつに強い農作物の導入:日本の研究機関は、気候変動による干ばつや洪水に強い農作物の品種改良を行っています。これらの技術は、特に東南アジアや太平洋諸島国で導入され、気候変動の影響を受けにくい農業生産が推進されています。例として、干ばつに強い稲やトウモロコシの品種が開発され、インドネシアやフィリピンの農家に導入されています。
  • 持続可能な農業技術の普及: 日本は、気候変動に対応した農業技術を通じて、環境に負荷をかけない持続可能な農業を推進しています。これには、スマート農業技術や灌漑システムの改善、水資源管理の効率化などが含まれます。これらの技術により、少ない資源で高い生産性を維持することが可能です。

 

国際協力の事例:

  • ベトナムでの農業支援:日本はベトナムの農業分野で、気候変動に対応した技術を提供しています。干ばつや洪水の被害を受けやすい地域で、耐久性の高い農作物の導入や、灌漑技術の改良に貢献しています。

 

③気候変動適応のための技術移転とキャパシティ・ビルディング

日本は、気候変動に強い社会を構築するために、技術移転とキャパシティ・ビルディング(能力開発)を積極的に進めています。これにより、アジア太平洋地域の国々が自らの力で気候変動に対応できる体制を整えることを目指しています。

 

日本の取り組み:

  • 技術移転:日本は、気候変動に関する予測技術や適応策に関する知見を他国に提供しています。例えば、気候モデルの活用や、異常気象の予測技術などが導入され、現地の防災対策に活用されています。
  • キャパシティ・ビルディング:日本は、気候変動に関する研修プログラムやワークショップを通じて、他国の防災担当者や技術者の能力向上を支援しています。これにより、現地の政府やコミュニティが気候変動に適応するための知識やスキルを習得し、効果的な対策を講じることができるようになります。例として、日本はタイやインドネシアの防災関係者を対象に、気候変動適応に関する研修を実施し、早期警報システムや水資源管理技術の導入を支援しています。

 

国際協力の事例:

  • 気候変動適応ワークショップ:日本は、気候変動に関連した国際会議やワークショップを開催し、アジア太平洋地域の各国が適応策を共有し、共同で対策を進めるためのプラットフォームを提供しています。これにより、各国の連携が深まり、気候変動に対する地域全体での対応力が強化されています。

 

④気候変動による災害リスクの軽減

気候変動が原因で増加する自然災害(洪水、台風、干ばつなど)に対して、日本はその影響を軽減するための技術的支援を提供しています。これには、災害予測やリスク評価システムの導入、防災インフラの整備が含まれます。

 

日本の取り組み:

  • 早期警報システムの導入:日本は、気候変動によって頻度が増す台風や洪水に備えるため、他国に早期警報システムを提供しています。これにより、災害の発生前に予測し、事前に避難や準備が行える体制が整えられています。
  • 防災インフラの強化:気候変動の影響を軽減するため、日本は防災インフラ(堤防、排水システム、耐震・耐風構造の建築物)の整備を他国と協力して進めています。特に都市部での洪水対策や耐風性のある建物の設計支援が進められています。

 

国際協力の事例:

  • バングラデシュでの洪水対策:バングラデシュでは、気候変動に伴う洪水リスクが増加しており、日本は同国での洪水対策プロジェクトを支援しています。これには、早期警報システムの導入や、河川堤防の強化などが含まれ、気候変動に伴う災害リスクの軽減に貢献しています。

 

主な参考情報:

JICAグローバル・アジェンダ、気候変動、https://www.jica.go.jp/activities/issues/climate/index.html

環境省、ecojin's EYEEco-DRRhttps://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230913.html

 

まとめ

日本は、JICAを通じてアジア太平洋地域の防災能力向上に積極的に関与し、仙台防災枠組みに基づいた技術協力やキャパシティ・ビルディングを進めています。また、災害時には国際緊急援助隊(JDR)を通じて迅速かつ効果的な支援を提供し、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)やアジア防災センター(ADRC)と連携して防災体制を強化しています。さらに、先進的な防災技術や早期警報システムを共有し、気候変動リスクに対応するための適応策も推進しています。これにより、地域全体のレジリエンス向上に貢献し、災害に強い社会を構築しています。

 

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