インド グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)市場の概況と多国籍企業による事業開発活動の事例について
グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)市場の概況
インドのグローバル・ケイパビリティ・センター(GCC:多国籍企業が海外、特にコストが低く才能のある労働力が豊富な国に設立する、特定のビジネスプロセスや機能を担う専門センター)市場は、過去数十年にわたり顕著な成長を遂げてきました。本稿では、その成長の経緯と現在の状況について説明しています。
インドでは、1980年代後半より主にIT・ソフトウェア開発企業のオフショア開発拠点として、多国籍企業によるインドへの投資が始まっています。2010年頃までには、MNCによるバックオフィス機能を担う拠点としてGIC(global in-house centers)やGCC(global capability center)が発展し始め、主にIT、人事、経理などの機能をシェアードサービス(間接部門を共有して使うサービス)として活用する流れが主流化してきました。さらに、2020年代に入るとインドにあるGCCは多国籍企業のマーケティング、サプライチェーンマネジメント、法務、リスク管理、税務管理などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)機能を拡充し、その一つの機能としてR&Dセンター等の機能を担うようになってきています。現在では、GCCの数は1,600か所を超えると言われており、2025年には1,900拠点にまで伸び、600億ドルの経済規模 になると予想されています。また、多国籍企業はGCCでのR&Dセンター機能に加えて、インド現地大学との連携で設立したR&Dセンター・事業や、スタートアップ連携/買収による事業開発機能を拡充してきており、企業価値創造を目的とした活動を充実させてきています。
GCC市場は年間11.4%の年平均成長率(CAGR)で成長しており、FY2023における市場規模は460億ドル、そのうちエンジニアリング研究開発(ER&D)が256億ドルを占めています。また、GCCは今後2023年から2028年にかけてさらなる成長が見込まれ、GCCの総数は2,100を超え、収入は900億ドル以上、GCCによって雇用される人材は340万人以上に達すると予測されています。
インドのGCC市場の成長を支える重要な要素の一つが、インドの豊富なテクノロジー人材プールです。毎年約150万人のエンジニアリング学生が卒業しており、世界トップレベルの科学、技術、エンジニアリング、数学(STEM)卒業生を輩出しています。この豊富な人材プールを背景に、GCCは自らを利益センターへと再定義し、税務、法律、マーケティング、調達などのコア機能領域にも進出し、地方都市への事業拡大を通じてインドの経済成長をさらに促進しています。
<参考情報>
India's global capability centre market: Six imperatives to scale up further(pwc,2023)
https://www.pwc.in/assets/pdfs/six-imperatives-to-scale-up-the-global-capability-centre-market-in-india/six-imperatives-to-scale-up-the-global-capability-centre-market-in-india-v1.pdf
GCC等を活用した研究開発の事例
ここからは、多国籍企業のGCC等を活用した研究開発の事例を紹介したいと思います。
まず、多国籍企業の研究開発の事例として、Ⅰ. GCCのR&Dセンター事例、Ⅱ.多国籍企業の大学等学術機関との研究開発連携事例、Ⅲ.多国籍企業のスタートアップ企業との研究開発連携事例について、以下に示します。前述の通り、 多国籍企業は、GCCや現地大学・スタートアップとの連携を通じて、より価値創造の活動に力を入れてきています。
<参考情報>
The Impact Makers of Indian ER &D(Nasscom,2021)
https://nasscom.in/erd-showcase-2021/pdf/The-Impact-Makers-of-Indian-ERD.pdf
そこで、多国籍企業の研究開発活動がどのように行われているかを理解するために、この事例の中から、日系企業の取り組みとして、Suzuki Motor(スズキ自動車)の取り組みを紹介します。Suzuki Motorは、2022年にインドのIITハイデラバード校とともにGCCの一機能としてSuzuki Innovation Center(SIC)を設置し、自動車産業、学術機関、スタートアップ企業間のオープンイノベーションプラットフォームとして運営しています。SICでは、以下の3点を主な活動としており、起業家支援等を推進しています。
- ENGAGE: 国際的リーダー、起業家、イノベーターなど、未来のコラボレーターを巻き込む
- EXCHANGE: 才能開発を促進し、起業家精神に火をつけ、価値観とシナジーを交換する
- INNOVATE:インドの農村部、モビリティ、気候、そしてその他分野でもバランスの取れた成長をもたらす
このSICの活動から、日本のベンチャー企業との連携事例が生まれています。株式会社SkyDriveは2018年に創業した「空飛ぶクルマ」(電動垂直離着陸型無操縦者航空機)や、物流ドローンなどの開発・製造などを行うベンチャー企業です。SkyDrive社は、SICの協力を得て、2023年に無人ドローン技術の開発に関するMOUを締結しています。IITハイデラバードにある自律航法に関する技術革新ハブ(Technology Innovation Hub on Autonomous Navigation (TiHAN))の自律航法テスト施設を活用して、重量貨物ドローンの開発を実施しています。SkyDrive社はこの開発活動を通じて、インドにおけるドローンロジスティック市場の開拓も計画しており、製品開発と市場開発の両方に挑戦をしています。
<参考情報>
SkyDrive to Collaborate with Indian Institutes of Technology Hyderabad to Create Logistics Drone Market in India
https://en.skydrive2020.com/archives/11388
ここまで、インドにおける、GCC市場の発展状況や多国籍企業の現地大学やベンチャー企業との連携事例について紹介してきました。日本の企業にとっても優秀な人材が豊富なインドを自社製品の研究開発拠点として捉えることで、海外進出の可能性が広がるかもしれません。また、日本のベンチャー企業にとっても多国籍企業が運営するGCCや大学連携の拠点とつながることで、自社製品の研究開発を加速したり、海外進出の方法が見つかる可能性があります。
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