「スタンティング(stunting)」という言葉は一般的にはあまりなじみがないかもしれません。スタンティングとは、栄養不良の一形態です。スタンティングは発育阻害と訳され、日常的に栄養を十分に取れないことで慢性栄養不良に陥り、年齢相応の身長まで成長しない状態のことを指します。スタンティング(発育阻害)は、栄養価の高い食事が十分にとれなかったり、下痢や回虫などの病気に頻繁にかかったりすることで起こります。

スタンティングは慢性的な栄養不良によるもので、急性あるいは重度の栄養不足から生じる状態で、十分なカロリーを摂取できておらず、差し迫った死のリスクに直面している状態である消耗症(wasting)とは異なります。

スタンティングの子どもたちは、年齢に対し身長が低く、脳の認知能力を十分に発達させることができません。そのことが学齢期の学びだけではなく、おとなになってからの労働にも影響を及ぼします。スタンティングは、子どもの身体的・認知的発達に不可逆的なダメージを与え、生涯にわたる健康と経済的影響をもたらす深刻な問題です。

Stunting01.png

タンザニアの公立小学校における給食配膳の様子(202311月)
(本文とは直接関係ありません)

スタンティング削減のための世界目標

子どものスタンティングの問題に取り組むために、WHOと国連は栄養状態の開発目標を設定しています。WHOは、6つの世界栄養目標を定めており、そのうちの1つは、2025年までにスタンティングの5歳未満の子どもの数を40%削減することを目標としています。2015年には、国連加盟国が2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標(SDGs)に合意しました。第二の目標は、飢餓ゼロを達成することです。具体的には、「飢餓をなくし、食料安全保障と栄養改善を達成し、持続可能な農業を促進する」ことを目指しています。SDG2は、さらにいくつかのターゲットで規定されており、そのひとつは、5歳未満のスタンティングの子どもの数を2025年までに1億人、2030年までに8,300万人に減らすことです。

なお、国際社会による取り組みもあり、世界のスタンティングの罹患率は2000年の30%から2022年の22.3%へと大きく減少しています。

アフリカにおけるスタンティング

状況が改善しつつある世界の他の地域とは対照的に、スタンティングは多くのアフリカ諸国において長い間、公衆衛生上の大きな課題であり続けています。2022年に発表された論文「Prevalence of child stunting in Sub-Saharan Africa and its risk factors」によると、特にサブサハラ(サハラ以南)アフリカの子どもたちはスタンティングの影響を強く受けており、平均罹患率は41%にも達します。スタンティングは、1歳以上の子ども、男児、低出生体重児、妊娠間隔が短い子ども、教育水準の低い母親、貧しく食糧不安のある家庭で有意に高くなっていました。母親の教育、摂食習慣、環境要因(気候変動など)が重要なリスク要因であることも分かっています。

サブサハラアフリカではスタンティングはまだまだ大きな課題になっており、世界的な目標を達成するためには多大な努力が必要になっています。女性に対する教育、子どもの摂食習慣、気候変動を含む環境要因への対策など、幅広い取り組みが求められています。

タンザニアにおけるスタンティング

東アフリカにあるタンザニアでもスタンティングは公衆衛生分野における大きな課題になっています。タンザニアでは全国を対象としたTanzania Demographic Health SurveyTDHS)が4年ごとに実施されており、スタンティング罹患率も重要なモニタリング項目となっています。

1991-92年に49.7%だったスタンティング罹患率は、2022年には30%へと大幅に改善していますが、それと同時に人口も増えていますので、絶対数ではそれほど減っていないのが現状です。

Stunting02.png

タンザニアにおけるスタンティング罹患率の推移
出典:Tanzania Food and Nutrition Centre

また、2018年と2022年のデータを見比べると、スタンティングの罹患率が上がっている州もあります。さらに、都市部であるダルエスサラーム州ではスタンティング罹患率が18.4%と低い一方、農村部であるイリンガ州、ンジョンベ州、ルクワ州では50%前後にもなっており、状況は一律に改善しているわけではありません。

Stunting03.png

タンザニアの州ごとのスタンティング罹患率(2018年と2022年比較)
出典:Tanzania Food and Nutrition Centre

タンザニア政府は、全国のスタンティング罹患率を2022年の30%から2025/26年には24%まで下げることを目標に掲げています。

タンザニアでスタンティング問題に取り組むキッコーマン

スタンティングの解決策の一つは、子どもの栄養摂取を改善することです。タンザニアの貧困層の食事は穀類・炭水化物に偏っており、たんぱく質が欠乏しがちです。豆類はたんぱく質を多く含むことが知られていますが、中でも大豆は、たんぱく質の含有率が30%以上と高く、アミノ酸がバランスよく含まれていることから「畑の肉」と呼ばれています。しかし、タンザニアでは大豆は栽培されているものの、主に搾油用、動物の飼料用として使われており、人の食用としてはあまり活用されていないのが現状です。

そのような中、醤油最大手であるキッコーマン株式会社はJICAの支援の下、タンザニアで「パフ大豆を使った高たんぱく食品普及・実証・ビジネス化事業」を実施しており、「パフ大豆」(パフ加工を施した大豆)を活用してスタンティングを含む栄養問題の改善に取り組もうとしています。 

Stunting04.png

「パフ大豆を使った高たんぱく食品普及・実証・ビジネス化事業」 案件概要図
出典:JICA

 

まとめ

今回は、アフリカやタンザニアにおけるスタンティングの現状をご紹介しました。イースクエアではキッコーマンが実施している「タンザニア国 パフ大豆を使った高たんぱく食品普及・実証・ビジネス化事業」を外部専門家としてご支援しています。アフリカにおける調査や事業立ち上げにご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

<参考情報>
Prevalence of child stunting in Sub-Saharan Africa and its risk factors
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2667268522000092

ユニセフの主な活動分野|栄養
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_02.html

キッコーマン社、タンザニアで栄養改善ビジネスを目指す!~TICAD30 周年、ABE イニシアティブ 10 周年に、民間連携事業【アフリカ課題提示型】案件を契約締結!~
https://www.jica.go.jp/Resource/tokyo/press/h2nf2c000000209b-att/lk79t70000000m7s.pdf

中小企業の海外展開を強力にバックアップします

進出先選定、市場調査、実現可能性調査(F/S)、公的機関の支援活用など、事業の立ち上げをワンストップでご支援します。 海外展開にご関心がある方はお気軽にお問い合わせください。

海外展開カテゴリバナーrev.png アフリカホワイトペーパーバナー案.jpg

ホワイトペーパーバナー案.jpg