アフリカ進出の際の対象国の選び方
「日本企業にとってアフリカ市場の攻略が難しい理由」で、成長するアフリカ市場においてなぜ日本企業がビジネスを展開することが難しいのか、以下の6つの理由を挙げました。
- インフラの不足
- 制度・規制の不透明さと複雑さ
- 政治的・経済的な不安定性
- 人材の確保・育成
- 文化・言語の違い
- 所得水準の低さ
アフリカは広大で、54か国に約13億人が暮らしていて、国によって事業環境が大きく異なる、ということには留意が必要です。上記で挙げた課題も、国によって度合いが大きく異なるというのが実態です。アフリカに進出している企業はどのように進出先を決めているのでしょうか。
東アフリカは日本から距離的に近く、英語を公用語とする国が多い反面、西アフリカは日本から距離的に遠く、仏語を公用語とする国が多い、北アフリカは中東に近いため、イスラム教を国教としてイスラム語を公用語とする国が多い、というのはよく言われることです。
もちろん進出先はそれだけの要素では決められません。今回は、アフリカに進出する際に対象国選びの参考になる4つの観点をご紹介します。
- GDP(国内総生産)
- 経済共同体と関税
- ビジネスのやりやすさ
- 腐敗認識指数
タンザニア共和国のムベヤ空港(2015年)
1. GDP(国内総生産)
アフリカにおける進出先選びの際に大きな参考になる経済レベルは、国によって大きな差があります。少し縦長になりますが、アフリカ54か国の1人あたりGDPのランキング(2022年)をご紹介します。1人あたりGDPの右には国全体のGDPの数字も載せておきました。1国のGDPが1,000億USDを超える国は黄色に色付けしてあります。
大まかに言って1人あたりGDPは、1人あたりの所得水準と比例しますので、どういった商品・サービスが売れるかは1人あたりGDPの値が参考になります。
ちなみに日本の1人あたりGDPは39,312 USD、中国は12,556 USD(アフリカでは2位)、タイは7,066 USD(アフリカでは6位)、ベトナムは3,756 USD(アフリカでは15位)になっています(いずれも2021年)。
一般的に、1人当たりGDP(国内総生産)が3,000 USDを超えると、モータリゼーション(自動車の大衆化)が本格化すると言われています。アフリカの多く(約7割)の国はまだその水準には達していないことが分かります。ただ、アフリカの国はジニ係数が高い(貧富の格差が大きい)国が多いため、一部の富裕層に富が集中している傾向があることには留意が必要です。
また、1人あたりGDPが上位のセーシェルや赤道ギニア、ガボンなどは人口が少なく、国家としてのGDP規模は大きくありませんので、国を市場として捉える際には1人あたりGDPと国全体のGDPの両方を参照する必要があるでしょう。
<参考情報>
OECDデータ ジニ係数
https://data.oecd.org/inequality/income-inequality.htm
2. 経済共同体と関税
アフリカには複数の経済共同体(地域連合)があります。具体的には、東アフリカ7ヵ国からなるEAC(東アフリカ共同体)、西アフリカの 15ヵ国・地域からなるECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)、南部アフリカ16か国からなるSADC(南部アフリカ共同体)などがあります。これはいずれも、ヒト・モノ・カネの移動の自由化を目指す経済共同体です。例えばEACに加盟するタンザニアで作られた製品を、同じくEAC加盟国のケニアに輸出する場合、関税がかかりませんので、域内の生産活動や貿易が活発になります。タンザニアに製造拠点を構えて、タンザニアに加えて6か国のEAC加盟国に販売する、という事業計画が立てやすくなります。下図を見てもお分かりの通り、複数の経済共同体に加盟している国もあります。
アフリカの経済共同体
いま注目されているのは、アフリカ連合(AU)加盟の55カ国・地域(うち54カ国・地域署名済み)をアフリカ大陸の単一市場として統合するための枠組み、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)です。
2018年3月のアフリカ連合(AU)臨時首脳会議において、アフリカ44カ国がアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立合意に関する協定に署名。発効の条件だった調印国22カ国の批准が完了し、2019年5月30日に発効しました。2021年1月から運用開始されており、関税引き下げや、非関税障壁の撤廃を目指しています。2022年11月現在で43カ国が批准しています。
現在、関税譲許表や原産地規則の一部が交渉中で、まだ、実際の関税撤廃には至っていませんが、8カ国での試験運用プログラムが始まり、試験的な取引も開始されています。本格運用が始まれば、アフリカ域内の貿易が活発化するとともに、域内製造業の後押しになると考えられています。
なお、ケニアと英国など、アフリカの国と域外の国がEPA(経済連携協定)を結んでいるケースもあります。また、African Growth and Opportunity Act (AGOA)は、米国がアフリカのサブサハラ諸国の発展に関与すべく2000年に成立させた法律で、条件を満たす国からの輸入に対して無関税の特恵待遇を与えるものです。AGOA対象国と認められる条件としては、市場経済、法の支配、政治的な多元性、適正な法手続きの確立や米国の貿易・投資に対する障壁の撤廃、貧困削減、腐敗撲滅、人権保護に関する政策の実施などが設定されています。アフリカの拠点からアメリカへの輸出を考えるのであれば、AGOA対象国が有利になります。
LDC(後発開発途上国)とは、国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国のことを指します。LDCで作った製品を日本への輸出する場合、日本側の関税は基本的に無税になります。世界でLDCは46か国ありますが、そのうちアフリカの国が33か国を占めています。
アフリカから域外への輸出を想定するのであれば、そういった域外との経済協定や関税にも留意が必要です。
<参考情報>
WTO・他協定加盟状況(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/world/africa/ke/trade_01.html
アフリカ大陸自由貿易圏の展望(前編)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/cb9f24ef9d8aed17.html
アフリカ大陸自由貿易圏の展望(後編)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/12b967e20483bcad.html
後発開発途上国(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ohrlls/ldc_teigi.html
3. ビジネスのやりやすさ
国選びには、「ビジネスのやりやすさ」という観点もあります。世界銀行が2003年から2019年(2020年版)まで毎年発行していた「Doing Business(ビジネス環境の現状)」という報告書があります。世界の国と地域のビジネス環境を網羅的に比較し、ビジネスのしやすさをランキング形式で発表するものです。
企業家にとっての関心が高い起業、建設許可、電力へのアクセス、資産登記、融資獲得、投資家保護、納税、貿易取引、契約執行、破産処理といった項目につき、ビジネスのやりやすいかを採点し、項目別の順位と総合順位が発表されます。
2019年10月に発行された「Doing Business 2020」では、世界190の国と地域が対象となっており、総合順位は1位ニュージーランド、2位シンガポール、3位香港、4位デンマーク、5位韓国でした。ちなみに日本は29位(OECD内で19位)でした。
アフリカ内の1位~10位の国は下記の結果でした(カッコ内は世界順位)。
- モーリシャス(13)
- ルワンダ(38)
- モロッコ(53)
- ケニア(56)
- チュニジア(78)
- 南アフリカ(84)
- ザンビア(85)
- ボツワナ(87)
- トーゴ(97)
- セーシェル(100)
2018年版、2020年版のランキングに対して中国やサウジアラビアなどの国から不正な働きかけがあったことなどからDoing Businessは2021年版以降廃止になりましたが、2020年版は世界銀行のホームページに掲載されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
<参考情報>
Doing Business 2020
https://documents1.worldbank.org/curated/en/688761571934946384/pdf/Doing-Business-2020-Comparing-Business-Regulation-in-190-Economies.pdf
4. 腐敗認識指数
最後にベルリンに拠点を置く国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが1995年から毎年発行しているCorruption Perceptions Index(腐敗状況を示す認識指数)をご紹介します。この指数は、企業の取引に絡むわいろの横行など、政治家・公務員の汚職体質がない国を100、最もひどい国をゼロとし、順位付けしたものです。汚職という観点から世界の国を比較することで、腐敗防止効果を目指したものです。
2022年版の報告書では、1位はデンマーク、2位はフィンランドおよびニュージーランド(同点)、4位はノルウェー、5位はシンガポールでした。ちなみに日本は18位でした。
アフリカ内の1位~8位の国は下記の結果でした(カッコ内は世界順位)。
- セーシェル(23)
- ボツワナ(35)
- カーボベルデ(35)
- ルワンダ(54)
- モーリシャス(57)
- ナミビア(59)
- サントメ・プリンシペ(65)
- ベナン(72)
- ガーナ(72)
- セネガル(72)
- 南アフリカ(72)
CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX
トランスペアレンシー・インターナショナルのホームページには、インタラクティブな世界地図が掲載されており、地図上で国をクリックすると詳しい結果を見ることができます(色が濃いほど腐敗度合いが高い)。
<参考情報>
CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX
https://www.transparency.org/en/cpi/2022
最後に
ある国に進出しようと思ったきっかけとして、「(人などの)ご縁があったから」という理由を聞くことが時々あります。何ごとにもきっかけは必要ですので、それ自体は必ずしも悪いことではありませんが、事業環境分析や自社が展開しようとしている商品・サービスの価格帯や事業規模などを鑑みて、その国が自社に合っているのか、冷静な見極めも必要でしょう。
Doing Business(ビジネス環境の現状)、腐敗認識指数などの指標を見ると、アフリカの国の多くは下位に位置しており、ビジネス環境の整備はまだまだこれからというのが実態でしょう。しかしこれらの指標は相対評価ですので、行政サービスのデジタル化が進み、理不尽な規制が撤廃されるなど、絶対値としては改善してきている国が大半です。事業環境が整っておらずリスクがあるので進出しない、ということではなく、必要な事前調査を行ってリスクをできるだけコントロールしながら進出するという姿勢が途上国・新興国市場においては大切ではないでしょうか。
今回は、アフリカ進出の際の対象国の選び方に必要な4つの視点について解説しました。これからアフリカに進出される企業様は是非参考にしてみてください。また、イースクエアは、アフリカに多くネットワークを有しているため、対象国の選定支援も行っています。詳しくは以下をご確認ください。
イースクエアのアフリカ進出・展開支援
弊社は、2010年よりアフリカを始めとする開発途上国・新興国での日本企業のビジネス展開を市場調査、製品・技術開発(ローカライゼーション)、現地パートナーの発掘、テスト販売、ビジネスモデル構築・改善、公的機関などの補助金・助成金など申請など、お客様のニーズに合ったサポートをご提供します。アフリカでの多数のプロジェクト経験に加え、様々な民間企業でのビジネス経験を有する弊社コンサルタントのノウハウや現地ネットワークをフル活用し、企業様のアフリカでのビジネス展開をオーダーメイドでご支援します。
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