2020年7月29日

自然関連リスクがもたらす幅広い分野の社会経済への影響と、投資家らの関心の高まりを受け、自然関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Nature-related Financial Disclosures, TNFD)が正式な発足に向けた準備段階に入った。TNFDは、人と自然の繁栄のため、自然に優しい(nature-positive)活動に向けて金融の流れを再編し、世界経済のレジリエンスを高めることを目的としている。同時に、パリ協定、ポスト愛知目標、持続可能な開発目標(SDGs)に沿う金融の舵取りを目指すものである。COVID-19パンデミックは、自然環境の劣化や、違法な野生動物取引に関連する動物由来感染症(ズーノシス)の拡大と考えられている。これは、自然関連のリスクが、気候リスクよりも速い速度で経済に影響を与えうることの一例でもあり、地球規模での緊急課題となっている。

TNFDは2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で着想を得ている。その後、保険大手アクサ(AXA)と世界自然保護基金(WWF)が、投資ポートフォリオをプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)に則したものとするには、自然関連の影響や依存度について包括的で正確なデータが必要であるとした報告書を、仏政府の支援によってまとめている。続く2020年1月のダボス会議では、タスクフォース発足を念頭にハイレベル会合が実施された。

TNFDは、約2年間かけて軌道に乗せる予定で、2020年11月までの準備過程(フェーズ1)では、非公式ワーキンググループ会合を通じて、立ち上げ4機関(国連開発計画(UNDP)、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、世界自然保護基金(WWF)、グローバル・キャノピー)や、世界の主要金融機関が検討を重ねる。2021年1月から本格的にフェーズ2の準備段階へ入り、同5月の正式発足を目指すという。

非公式ワーキンググループには、すでにアクサ、世銀、BNPパリバ、スタンダード・チャータード、DBSらが参加を表明している。英国、スイス、フランスおよびオランダ政府や、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)も同ワーキンググループへ積極的な関与を示しており、国際的な広がりが期待される。自然関連リスクについての理解を深めるため、現時点で既存のリスク測定ツール(Shift Natural Capital Toolkit、Global Footprint Network等)の活用などを推奨している。

尚、気候開示基準委員会(CDSB)も、タスクフォースの発足を歓迎するコメントを出している。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿ったCDSBの自然関連の開示フレームワークは既に完成しており、今回のタスクフォースは既存のアプローチに焦点を充てる作業に徹し、情報開示の強化を目指すことが重要だとの見解を述べている。CDSBは今後タスクフォースと密に協力を進める予定。