ILO、気温上昇により2030年までに労働生産性が大幅に低下と報告
2019年7月 1日
国際労働機関(ILO)の新しい報告書によれば、気候変動に起因する暑さストレスで、2030年には8,000万人の常勤雇用分にあたる労働生産力が失われると予測している。これは世紀末までに1.5℃気温が上昇するというシナリオに基づいており、経済損失2兆4,000億ドルに相当する。
ILOは報告書「温暖化した地球で働くこと:暑さストレスの労働生産性とディーセント・ワークへの影響(仮訳)(Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labour productivity and decent work)」を発表。気候・生理学・雇用のデータに基づいて、国や地域ごと及び世界全体における労働生産性の予測を示した。
暑さストレスとは、身体が生理的障害を受けずにすむ温度を越えたときのストレスであり、一般に多湿で35℃を越えた場合に生じる。世界的に最も暑さストレスの影響を受けると考えられるセクターは農業セクターであり、2030年までに9億4,000万人の農業従事者の労働時間の60%が失われると予測される。また、建設業、環境関連の製品・サービス(天然資源管理)、ごみ収集、緊急時修理作業、運輸、旅行、スポーツ、工業労働者なども大きな影響を受ける可能性がある。
暑さストレスの影響は地域により大きな偏りがあり、最も影響の大きい南アジアと西アフリカでは2030年に約5%の労働力が失われるという。最も貧しい地域が経済への影響を最も大きく受けるため、労働者の貧困や非正規の不安定な雇用、自給自足農業、社会保護の欠如などといった問題がさらに悪化する可能性がある。結果的に経済移民の増加などが予測されるという。そのほか、国による貧富の格差が拡大し、最も弱い立場の人々の労働環境の悪化などが予測されるため、このような新しい現実に対処するためには最も弱い立場の人々を保護することを主眼とした政府や雇用主、労働者による対策が急務であるとしている。