2021年4月 9日

(一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)からの転載)

日本と中国を含むアジアでのネットゼロを実現するための2050年までの投資機会が、2℃目標の場合で26兆ドル(約2600兆円)、1.5℃目標では37兆ドル(同3700兆円)になるとの試算が公表された。これらの投資額はアジアのGDPの1.7‐2.0%で、ほとんどの国の予算内で収まるとしている。このうち日本については、1.7‐2.3兆ドル(170‐230兆円)と見込んでいる。ネットゼロの投資機会は、予算的な制約にならない一方で、化石燃料エネルギーに比べて雇用創出率が高く、新たな成長の後押しにもつながるとしている。

今回の試算は環境NGOネットワークの「気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)」(本拠オーストラリア)がまとめた。2050年までのエネルギー需給の試算については、国際エネルギー機関(IEA)、中国の清華大学モデル、総合評価モデル(IAM)等の6件の試算をベースにして、AIGCCが参照調査を実施した。

国別では、清華大学モデルによると、中国が14.4‐19.9兆ドルと全体の半分以上を占める。第2位のインドは3.7‐5.1兆ドル、日本は第3位で2.0‐2.7兆ドル(全体の参照調査値では、1.7‐2.3兆ドル)となっている。

日中を含むアジア諸国の現状分析では、化石燃料への依存度が高く、2019年のアジア主要12カ国の発電に占める化石燃料の割合は約80%に達している点。再生可能エネルギーの風力と太陽光の利用可能性が不安定であることを指摘。さらに、調査対象のアジア9カ国中の6カ国(日本を含む)で、脱炭素化に対する野心的目標の欠如と、以前の目標値実現では期待外れである点等をあげている。

その一方で、アジア諸国は現状を克服して、ネットゼロ社会への移行を実施するうえで有利な立場にあると位置付けている。たとえば、中国とインドでは、先進国に比べ再エネコストが最高25%安い。中国の再エネは2021年にはグリッドパリティを達成する見通しで、インドの太陽光発電はすでに石炭発電の価格を下回っている。またアジアの4大経済国のうちの3カ国(中国、韓国と日本)はネットゼロ宣言で目標を確約した。インドも再エネ導入では野心的な目標を設定している。

こうした潜在的な脱炭素投資の可能性と、主要国の政策「野心」の増大を踏まえて、AIGCCは推計したアジア全体での脱炭素化投資予測の26兆ドル(2℃シナリオ)から37兆ドル(1.5℃シナリオ)は、ほとんどの国の予算内に十分収まるレベルのものとしている。特に、既存の化石燃料の輸入削減と化石燃料設備投資の支出用途変更によって部分的に資金調達できるとしている。

こうした脱炭素投資を加速化し、より効率化するために、各国政府がとるべき施策として、次の点をあげている。第一は明確な目標の設定だ。政府は高水準で明確な目標を設定(ネットゼロの野心的目標)する一方で、規制や法整備(再エネ目標、系統連系の改善)や商業的環境(固定価格買取制度、排出権取引制度、グリーンファイナンス等)の整備が必要としている。

第二としては、政府は、化石燃料資産が先細りとなるため、化石燃料部門から再エネ部門への雇用の移行を、公正かつ安定的に実施することで脱炭素化の社会的コストを管理し、金融市場の安定性を維持する必要がある。

第三は、企業は国別目標(NDC)遵守における自社の役割を最低限果たし、パリ協定の目標設定を規範事例として採用し、TCFDの提言に沿った情報開示標準を採用する必要がある、としている。

https://www.aigcc.net/wp-content/uploads/2021/03/March-2021_-Asia%E2%80%99s-Net-Zero-Energy-Investment-Potential-English.pdf

https://www.aigcc.net/wp-content/uploads/2021/04/JAPANESE_Asia%E2%80%99s-Net-Zero-Energy-Investment-Potential_Final-.pdf
 
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