2020年7月 6日

国連環境計画(UNEP)と国際家畜研究所(ILRI)は、共同で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やその他の動物から人へ感染する動物由来感染症の発生や拡大の根本的な原因を考察し、推奨する対応策を提言した報告書「次のパンデミックを回避する:動物由来感染症と伝染の連鎖を断つための方法(仮訳)(Preventing the Next Pandemic: Zoonotic diseases and how to break the chain of transmission)」を発行した。報告書は政策者に向けた将来的な伝染病のアウトブレイクを回避し対応するための実践的な提言を示し、将来的なパンデミックを予防し対処するため人・動物・地球の衛生を同時に目指すUNEPの「ワンヘルス・アプローチ」の導入を最適な対応策として提案している。

人類による自然環境への過剰なストレスによって、エボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)、ウェストナイル熱、リフトバレー熱、HIVといった動物由来感染症はズーノシス(zoonosis)とも呼ばれ、近年増加傾向にあるとされ、COVID-19はその一角に過ぎない。また、既存の感染症の60%、新たに出現した感染症の75%が動物由来感染症によるものだと言われ、この傾向は、土地の劣化、野生生物や資源の搾取、気候変動などによって拡大しているという。

食肉生産は過去半世紀で260%増加し、集約農業、インフラ、資源搾取が拡大することで、自然環境が失われている。またダム、灌漑、大規模農場は感染症の25%と関連している。旅行、交通、食のサプライチェーンの発展により垣根や距離が無くなっているとともに、気候変動は病原体の拡散に一役買っている。この結果人と病原体を持つ動物がかつてなく接近しているという。

放置された動物由来感染症により、年間で200万人の命が失われているが、多くは低・中所得層の人々が占める。過去20年だけで動物由来感染症は1,000億ドルもの経済的損失を生み出しており、これに今回のCOVID-19による損失額が今後数年で新たに9兆ドル以上加えられると推定される。

報告書は、気候変動や生物多様性損失への対応ともなる解決策として、野生生物、天然資源の過剰な搾取に終止符を打ち、持続可能な農業の推進や土地の劣化を逆転させ、生態系の健康を守ることに投資する必要性を訴えている。そして、人、動物、環境の衛生・健全性を統合した専門的対応と政策を求めた「ワンヘルス・アプローチ」の早急な導入が必要だとしている。